キルギスの動植物
植物相
キルギスの植物相は、標高差によって明確な区分が見られます。山岳地帯では、標高が変化するにつれて植生も変わり、北部にはステップ、草原ステップ、牧草地、低木林、そして森林が広く分布しています。一方、南部は乾燥した気候が特徴で、高山草原や森林はほとんど見られず、半砂漠や砂漠が一般的です。また、山岳地帯では標高が低い地域ほど樹木が豊富な森林が広がり、標高が高くなるにつれて樹木は減少し、草原が優勢となります。
キルギスには数千種にも及ぶ植物が自生しており、そのうち約600種は有用な野生植物、約200種は薬用植物とされています。薬用植物とは、薬効成分があり、伝統医学や民間療法、または薬品原料として利用される植物のことで、セントジョーンズワート(オトギリソウ属)、フキタンポポ、シーバックソーン(サジー)、トルキスタン・サーモプシス、オレガノ、スギナなどが含まれます。さらに、ソルトワート、メギ、ルバーブ、タイム類など、経済的に重要な種も存在します。森林にはチューリップやエーデルワイス、シュレンクモミ、シベリアモミ、ジュニパー(ネズ)が自生しており、春にはジュニパーの枝を家の中で焚き、邪気を払うという伝統も残っています。
南キルギスで特に有名なのはクルミの木です。アルスランボブには世界最大級の天然クルミ林があり、そこで見られるクルミの遺伝的多様性は園芸学上も貴重な資源とみなされています。クルミ林の周辺には、野生のリンゴ、ナシ、サクランボなども共存しています。クルミの木の起源に関しては数多くの伝説があり、アレクサンドロス大王が最初に植えたとする説や、イスラム世界の預言者ムハンマドがキルギスを旅する弟子に最初の種を授けたといった話も伝えられています。
動物相
キルギスの動物相は非常に多様で、主に山岳地帯に分布しています。標高3,400メートルから3,800メートル付近では、灰色マーモットが最も一般的な哺乳類であり、そのほかシルバーマウンテンハタネズミやフィールドハタネズミなども見られます。また、この高度帯では夏になると、ヒグマが野生の雄羊(アルガリ)、野ウサギ、シロイワヤギなどを求めて行動する姿が確認されます。標高3,800メートルを超える高度になると、マーモットやハタネズミ類は減少しますが、アカハラジョウビタキ、カラスバト、ヤマウズラ、ウソなどの鳥類が比較的豊富に生息します。山岳地帯では猛禽類も一般的で、イヌワシ、ハヤブサ、タカ、ノスリなどが確認されます。これらの猛禽類は完全な家畜化は困難ですが、伝統的な狩猟用に訓練されることがあります。標高の高い場所では、シロイワヤギが険しい崖や岩棚を軽々と登っている様子を目にすることができます。
キルギスには、マルコポーロ羊、アカシカ、オオヤマネコ、ユキヒョウなど、山岳地帯に生息する希少な動物も暮らしています。マルコポーロ羊は羊の中でも特に長い角を持つことで知られ、これまで記録された中で最長の角は約2メートルに達します。ユキヒョウは人目につかない場所を好むうえ、生息地の縮小に伴って絶滅が危惧される種です。キルギスは、この貴重なユキヒョウの保護活動において主導的な役割を果たしており、その存在を未来へつなぐための努力を続けています。