キルギスでのワシ狩り
イヌワシを使った狩猟は、12世紀から13世紀にかけてのモンゴルによる中央アジア征服にまで遡る古くからの伝統です。当時、優れたワシと良質な馬は同等の価値があるとされ、どちらも所有者に名声をもたらしました。
近年、この伝統は徐々に衰退しつつありますが、キルギスやカザフスタンの特定の地域では今も続けられています。 西欧ではしばしば「鷹狩り」の一種と見なされがちですが、タカやハヤブサを使った狩猟とワシを使った狩猟は異なるものです。特にワシ狩りを行う人々は、タカやハヤブサによる狩猟を「初心者向けのもの」として軽視する傾向があります。
狩りは、「ベルクット」と呼ばれる、特別に訓練された馬に乗って行われます。 ワシを運ぶために、騎手の腕を支える特別な装置(「バルダック」)が鞍に取り付けられています。狩りの対象は子鹿、キツネ、その他の小動物で、ワシはそれらの獲物に向かって急降下し、仕留めます。さらに、ワシは時に深い雪の中を移動できない若いオオカミを襲うこともあります。また、ワシは野生と同様にペアで協力して狩りをすることもあります。これは、経験豊富な鷹匠が特別に訓練したワシのみに見られる高度な狩猟技術です。
熟練したベルクッチ(ワシ狩りの名手)と訓練されたワシのペアは、晩秋に始まる通常4か月間の狩猟シーズン中に、50〜60匹のキツネ、12匹のアナグマ、2〜3匹のオオヤマネコ、4〜5匹のオオカミを仕留めることができます。 ワシは獲物を逃すことがほとんどなく、強力な爪で首を折るなどして素早く仕留めます。
ワシの捕獲、訓練、飼育は高度に儀式化された伝統的な技術であり、キルギス人やカザフ人はその達人として知られています。 訓練を受けたワシは、獲物の毛皮を傷つけずに仕留めることすら可能です。ワシの訓練には長い時間(通常3〜4年)がかかり、訓練は1人で行う必要があります。 また、毎日細心の注意を払いながら世話をすることが不可欠です。
寿命が40年にも及ぶワシのほとんどは、若いうちに捕獲されます。 捕獲されたワシは、フード(目隠し)をかぶせられ、ベルクッチが歌ったり詠唱したりする中で、わずかに揺れる止まり木に慣れさせられます。 これは、ベルクッチの声をワシに刻み込ませ、その存在を印象づけるための重要な訓練です。後に、ワシは人間の声を識別できるようになり、最終的には主人であるベルクッチの声のみに従うようになります。 また、ベルクッチが直接餌を与えることで、ワシとの信頼関係を築いていきます。
ワシがほぼ成鳥になると、ベルクッチ(ワシの調教師)は、ワシに獲物の匂いや特徴を覚えさせるため、狩猟対象となる動物の毛皮や皮を見せます。 これらの訓練は、特定の指示のもとで慎重に行われます。
訓練の一環として、疾走する馬の後ろにキツネの毛皮を引きずり、ワシに狩猟の感覚を養わせる方法も用いられます。すべてのワシがこのように訓練できるわけではありませんが、適性のあるワシは強い忠誠心を示します。 たとえ繋がれていなくても、獲物を仕留めた後は必ずベルクッチのもとへ戻ってきます。
キルギスにおけるワシ狩りのシーズンは、10月から2月にかけて行われます。 この時期、大型のワシは活発に狩りを行いますが、夏の間は繁殖期に入り、飛ぶことがほとんどありません。そのため、観光シーズンには、ワシ狩りの実演ではなく、ワシの飛行展示や小型のハヤブサによるデモンストレーションが主に行われます。 こうしたデモンストレーションは、イシク・クル湖周辺、ナリン地域、ビシュケク近郊などで体験することができます。